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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)310号 判決

北九州市小倉北区妙見一の二〇

上告人

平野耕治

右訴訟代理人弁護士

元村和安

北九州市小倉北区萩崎町一番一〇号

被上告人

小倉税務署長

永松邦俊

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五七年(行コ)第三六号青色申告承認取消処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五九年七月三一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人元村和安の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右違法があることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 長島敦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 安岡満彦)

(昭和五九年(行ツ)第三一〇号 上告人 平野耕治)

上告代理人元村和安の上告理由

第一点 原判決は判決に理由を附せず、民事訴訟法第三九五条第一項第六号に該当する。すなわち、原判決は、被上告人主張のいわゆる仮名預金の中に「平野せいじ」の預金が含まれているか否かの点について何らの判断を示していない。(なお、本件において「平野せいじ」の預金が右仮名預金から除外されていることを認めるに足りる証拠は存在しない。)

第二点 原判決は所得税法第一五六条の解釈・適用を誤り、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明白である。すなわち、原判決は、被上告人の所得認定方法が所得税法第一五六条所定の推計課税である旨の一審判決を見解を変更し、本件は実額課税であって、推計課税に該当しない旨判示するが、被上告人は、本件所得の認定にあたり、上告人に帰属すると認定した預金の入出金の状況等の間接的な資料を用いているのであるから、右認定の方法は所得税法第一五六条所定の推計課税に外ならない。

原審は、右のような誤った解釈に基き、本件では、上告人において、その入出金の経過ないし根拠を明らかにして上告人の事業所得とは関係のない入出金であることの資料を提出しない限り、これを上告人の事業所得の基礎とするのが相当である旨判決書に判示しているが、右は、実質的に挙証責任を納税者側に転嫁するものであり、法律の明文なくして、右のように解することは、憲法第三〇条の租税 律主義の原則に反するものである。本件においては、火事のため帳簿書類を焼失した上告人に対し、不可能を強いるものである。また原審が、銀行預金の中には、上告人の収入のほか、訴外耕治食品株式会社や上告人個人の従前所得の蓄積が混入している可能性がある旨の上告人の主張についても審理を尽していないのも前述のような誤った解釈に基因するものである。

よって、原判決は破棄さるべきものである。

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